残された人形
舞台中央に人形(ティナ,ケティ、エーリック、アーブル、ピア)が置いてある。
下手の前の方に机と椅子。中間幕閉まっている。照明付き音楽なる。しばらくして
キャリー (上手から出てくる)うわーボロい人形!これでも人形かしら、きったないわね
マリーナ (上手からゆっくり本を読みながら)50年ほど前ドイツがオランダまで侵入し ユダヤ人虐殺の手も広がってきた
キャリー 50年?!通りでボロいはずだわ!
マリーナ 本当古い人形ね。(机に目を留め)ねえ、ここに机があるから書かない?
キャリー でも、信じらんない!この資料館、なんだか薄暗いし、シーンとしていて気味が 悪いわ。私たち以外誰もいないんじゃないの?それにこんな不気味な人形も置い てあるしね。
マリーナ 仕方ないわよ、戦争資料館だもん!
キャリー マリーナ、何だかこの人形生きてるみたいじゃない?
マリーナ それより、この人形たちどんな子の遊び相手だったと思う?
キャリー でも、きっと私たちと同じくらいの歳の子じゃない?戦争の頃なんておもちゃとか
なかっただろうから、こんな人形でも唯一の宝物だったんじゃないの。
マリーナ 宝物か。そうね、この人形たち一体どんな思いで持っているのかしら。
キャリー さあね
マリーナ じゃあ私、この人形のこと書こうかな
キャリー こんな人形でも書くことあるの?!
マリーナ あるわよ。
二人ストップモーション照明
エーリック 思い出が戦争中なんて、ろくな思い出がないですよ。ドイツ兵は罪のない人たちを次々と殺していきました。
ティナ 唯一楽しかった事と言ったら ルイーズやクルトと遊んだことね。でも、兵隊に家を見つけられるんじゃないかっていつも怯えていたわ
ピア 見つかったらユダヤ人殺されちゃうもんね。
ティナ 私たち人形は助かったけど
アーブル 本当に楽しかったって言えるのか!こんな狭いガラスの中に閉じ込められて、誰にも相手にされずに!人間の晒し者になってるって言うのに!!人間なんて…
ケティ じゃあ、アーブルはクルトのことも嫌いだって言うの?!
エーリック ルイーズヤクルトは別ですよ。そうでしょう、アーブル?
ピア 私たちが今こうしていられるのはルイーズのおかげでしょ?アーブル、そのことも忘れちゃったの?!
アーブル 覚えてるよ、忘れるもんか!!
場面変わってルイーズたちの隠れ家へ。ルイーズ、クルト座ってミルクを飲んでいる
クルト ねえ姉さん。今日は雨かな?
ルイーズ そうね、そういえば雨の音がするもんね。
クルト 嫌だなー。それに地下室って窓がないんだもん。
ルイーズ ドイツ兵に見つからないためには隠れて住むしか方法がないのよ。いつか必ず外に出られる日が来るわよ。
クルト そうしたら父さんと母さん帰ってくる?ドイツ兵に連れて行かれてからもう1ヶ月もたっちゃったよ
ルイーズ 早く帰ってくるようにお祈りしましょう
クルト 父さんと母さんが早く元気で帰ってきますように!
ルイーズ さあ、クルト。今日は何をして遊ぶ?
クルト うーんとね、お城ごっこ!!僕が王様で、ねえさんはそうだなあ…隣の国のお姫様!!
ルイーズ じゃあ家来はアーブルとエーリック。私の妹はぴあで、他の国のお姫様はティナとケティね。
クルト うん!!王様、部屋から出てきます!パンパカパーン
ルイーズは腰を低くしてスカートをつまむ
クルト ねえ
ルイーズ どうしたの?これ
クルト 階段のところに置いてあったの。
ルイーズ じゃあ、またおばさんからね。『ルイーズさん、いきなり粉ばかりでびっくりしたでしょうね。それはパン作りの材料です。』
クルト 母さんがよく作ってくれてたね。それでどうするの?
ルイーズ 『それだけあれば50個ほどできるはずです』
クルト 50個?!
ルイーズ それからクルトにはもう話しましたか?一か月前の……
クルト 何?ねえさん、ねぇったら
ルイーズ なんでもないの!『それではまた何か困ったことがあったら相談してくださいね、マーサより』
クルト 姉さん…?
ルイーズ クルト?姉さんなら平気よ。パン作りなら母さんの作っているところを見たことあるし、それにとっても楽しそうだったもの。
クルト 僕、手伝うよ。ねえ、何をしたらいい?
ルイーズ ちょっと待って。よく読まないと…
クルト ねえ、さっきのマーサおばさんの手紙に書いてあった、ぼくに言うことって何?
ルイーズ ああ…あれはね、なんでもないのよ。本当に、姉さんが読み間違えただけだから気にしなくてもいいのよ
クルト 嘘だ!!ねえ、本当のこと言ってよ。ねえ、言ってってばー!!気になっちゃうでしょう?!ねえってばー!!
ルイーズ しぃ。。(クルトをたしなめるように)上の人に聞こえたらどうするの?!
クルト ごめんなさい…でも…
ルイーズ あとで話すから…
クルト 本当?絶対だよ。じゃあね、あとでね。絶対だよ、約束したからね!!
ルイーズ わかったわ・・・
クルト 楽しみだなあ
ルイーズ クルト、姉さんはパンを作ってみるからクルトはとなりで本でも読んでいたら?
クルト (あくびをする)なんかねむたいなぁ
ルイーズ クルト、きのうは夜中の二時くらいまで起きていたでしょう?きっとそのせいで疲れているのよ。少し休んできなさい。お仕事が一段落したら起こしてあげるわ
クルト うん
人形たち頭だけ動かして
エーリック ああ、大変なことになりましたね
アーブル ルイーズはもう十四歳なんあから大丈夫じゃないか?
ピア でもいーっぱいつ来るんでしょう?
ティナ 何か手伝ってあげられないかしら?
アーブル マーサおばさんの所から材料でも盗んでくるか?
ピア それいい!!
ケティ そんなことしたらルイーズがよけい大変になることくらいわかんないの?ほんとに…
ティナ ねえ!!こうしない?ルイーズが寝静まった夜中にそおっとこの部屋から出てパンを全部作っちゃうの
エーリック あ、それいいですね
ティナ ルイーズ、なんだかよくわからないところがあるみたいだったし、それに一人で五十個作るより、五人で十個ずつ作った方がよっぽど早く終わるでしょう?私、前の家では台所に飾られていたから作り方ならよく知っているの。
ケティ なかなかいい考えじゃない?
ピア うん!賛成!!
アーブル わかった。それじゃあ夜中に。
人形たちがもとにもどるころ、ルイーズが部屋へ入ってくる
ルイーズ ごめんね。一緒に遊べなくって。パンをね、たくさん作らなければいけないの。でも、途中が少しわからないから、それから先へ進めないの。マーサおばさんに聞きに行くわけにもいかないし。だけど明日の朝には届けないと間に合わなくなっちゃうでしょう?ねえ、ティナ、どうしたらいいのかしら…。答えてくれるわけないわよね…。それから、戸尾さんと母さんはもう帰ってこれないってこと知ったらクルト絶対泣き出しちゃうわ。でもこのままでもいけないわよね。…どうしたらいいの?!やっぱりきちんと話すわね。(部屋を出てパンを作り出す)
クルト (目をこすりながら)姉さんお腹がすいちゃった。お仕事はひと段落した?ぼく手伝うよ
ルイーズ ううん、平気よ。もう少しで終わるからそろそろ食べましょうか?
クルト うん!!やったあ!!
人形たちの部屋
ピア どうする?もう少しで終わっちゃうって。
ケティ ばっかねー!頭使いなさいよ!クルトに心配させないように言ったんでしょう?
ピア なんだあ、そっか!!
ティナ でもルイーズだいじょうぶかしら、だいぶ思い詰めていたみたいだけど…
エーリック そうですね…
ピア かわいそう…
エーリック ルイーズ本当のことをクルトに言えるでしょうか。
アーブル さぁな・・・。でも本当のことを知ったらクルトがどうなるかが心配だな。
ティナ ルイーズたちがユダヤ人はどこかへ連れていかれちゃうんですって。
ピア どうして?ティナ!ねえ、どこに連れてかえちゃうの?
エーリック どこかの収容所にですよ。そこで何をされるかは知りませんけど、だいたい見当はつくでしょう…
ピア やだ!こわい!
アーブル ひどい話だよな、ルイーズたちは何も悪いことをしてないっていうのに。
ケティ こんなじめじめし地下室に隠れて住まなきゃならないなんてね!
ティナ 早く…こんな戦争が終わればいいのに…!!
ルイーズたちの部屋
クルト ごちそうさまー!あ、そうだ!チョッキのボタンが取れちゃったんだ。
ルイーズ またとれちゃったの?
クルト あ、それから・・・ぼく戸尾さんと母さんに手紙書こうっと(下手へ)
ルイーズ、一瞬うごきが止まり、クルトの行った方を見てため息
クルト はい、これ二つ目のボタンとれちゃったの。えーっとまず、『父さんと母さんへ。お元気ですか?新しい地下室のお家は一一階のマーサ伯母さんのパン屋の下です。』
ルイーズ え?! あ…ええ…
クルト 『父さんたち何階に住んでいるんですか?ぼくは早く窓のあるおうちでみんなで一緒に母さんの手作りパンを食べて、スープのおかわりもいっぱいして、お腹いっぱいになりたいです。帰ってくる時ご飯を作る材料をいっぱい買って、それと姉さんには…』姉さん・・
ルイーズ クルト!ボタン付け終わったわ!
クルト うん、ありがとう。ねえ、姉さんは何が欲しい?なんでもいいから言ってよ。ね、何が欲しい?
ルイーズ クルト…
クルト 何?
ルイーズ その手紙、父さんや母さんには読んでもらえないの。
クルト どうして?父さんと母さんの居場所がわからないから?
ルイーズ ちがうの・・・もう・・・読むことができなくなったの・・・。一か月前の・・・
クルト 外に出ちゃいけないんならマーサおあばさんに頼んで、あ・・・でも今いないのか・・・じゃあ
ルイーズ 私たちユダヤ人はドイツ兵に見つかって連れていかれたらもう二度と帰ってこられないの…
クルト どうして?だって「戦争が終われば・・・。・・・っ、父さん・・・も・・・母さんも・・・死んじゃったの?
ルイーズ (うなずく)
クルト うそだ!そんなのうそだよ!父さんたち死ぬわけないでしょう?!どうして死ななきゃいけないの?!うそつき、姉さんの嘘つき!!
ルイーズ クルト、全部戦争がいけないのよ。『戦争は幸せを連れてってしまう』っていつか父さんが言っていたわ・・・
クルト こわいよルイーズ姉さん!ぼく、どこにも行きたくないよ!
ルイーズ クルトは姉さんがついているでしょう?いつだって一緒よ
クルト 本当に?!
ルイーズ ええ
人形たちの部屋
ティナ かわいそう・・・
アーブル 泣くなよ。もうすぐ十二時になってせっかく動けるのに泣いていたら何もできないだろう?
エーリック そうですね。せっかく恩返しが台無しになってしまいますからね
ルイーズたちの部屋
ルイーズ ねえ、クルト。これからは二人っきりだけど、姉さんは母さんの代わりにだってなれるでしょう?
クルト うん・・・
ルイーズ がんばろうね、クルト。さあもう寝る時間よ。
ルイーズ、クルトを上手へ連れていく。そのうちいすにもたれて寝てしまう)
人形たちの部屋
ティナ 十二時になったわね!
ピア やったー!
エーリック ルイーズ、、寝ているみたいですね
ティナ じゃあ、そろそろ始めましょうか!
ピア、エーリック、ケティ、アーブル、ティナの順で出る
ティナ しぃー!静かにね!
アーブル いきなり止まるなよ!
ティナ電気を消す。
ピア ねえ!!
ティナ しいー!!(小声で)なあに?
ピア (小声で)どうしてえ、消しちゃうの?
ティナ (小声)だって明るいときにもしルイーズが起きたらすぐに見つかっちゃうでしょう?
ピア (小声)あ、そっか
ティナ (小声)みんな、みんな!!じゃ、それだけだと不安だから椅子もあっちへ動かしましょう。
みんな(小声)うん!
ティナ (小声)ああ!ピアはいいのよぉ
エーリック、アーブル、ケティが運ぶ
みんな はーっ
ピア よいしょ(机を一人で動かし、物が落ちる)
みんな うわっ!(慌てて物を拾いながらルイーズに目を向ける)
ルイーズ う・・・ん・・・(寝る)
ケティ もう、ピアったら!
ピア だって机が邪魔だったんだもん・・・
ティナ みんなできるだけ静かにやりましょう。机も少し動かしましょう。
テーブル動かす。
ティナ ルイーズも朝早くから起きて疲れているんでしょうね。今日はつらいこともあったし・・・
ケティ ねえ、早く作ってルイーズを喜ばせましょうよ!
ピア どうやって作ったらいいの?
ティナ (小声)ケティ、あれを取ってきてくれない?
アーブル 適当だよ!適当、好きなように作っちゃえよ
ケティ (荷物をピアに渡す)何言ってんのよバーカ!!まじめにやんなさいよ!!
アーブル なんだとお!!
エーリック ああああああ、喧嘩はいけませんよ!
ケティ ふん!!
ティナ さあ、早くパンを作っちゃいましょう。三時になっちゃうわ。えーと…エーリックとアーブルはこれとこれをかきまぜて!
アーブル うん!
エーリック はい!
ティナ ケティは私と一緒にこれをねってくれる?
ケティ OK!(音楽スタート)
ピア がんばろーね!
ピアはティナとケティのところへ押している
ケティ やめてよ!
ティナ こっちは間に合ってるからむこうを手伝ってあげて!
ピア うん
ピアはアーブルとエーリックの邪魔をする。アーブルは怒ってピアをとなりの部屋に戻す。
ピア アーブル、さっきはごめん・・・
アーブル …わかればいいんだよ!
ピア ねえ、ちょっと来て!
アーブル なんだよお!(怒っていかない
ピア (うるさく)アーブル、アーブル早く来てよー!!
エーリック 行ってあげてくださいよ!
アーブル (隣の部屋に入って)なんだよー!
ピア あのネ(アーブルに粉をかける)ヤーイヤーイ!!
アーブル このやろ!(台をたおして)ヤーイヤーイ!!
ピア 何よ!
アーブル なぁによぉー!!
アーブル、ピアを突き飛ばし、ピアはルイーズにぶつかる。
ルイーズ 誰?…クルト?違うわ、だれかいるの?!
人形たち首や手を振る。ルイーズ、電気をつける。
人形たち きゃあ~!見つかるー!早く早く!!
人形たちは、走って部屋に戻り、めちゃくちゃな位置につく。
ルイーズ 何かしら、今の・・・。ドイツ兵のわけないわ。女の子の声がしたもの。何これ!どうしてこんなに粉がちらかっているの?・・・あ。これは混ぜてあるわ。こっちは練ってある・・・?クルトが起きてやるわけないし、やっぱり誰かいるんだわ・・・。この部屋も粉だらけ・・・。人形も違う位置だし、いたずらされたのかしら・・・。でも、だれもいないわ。この部屋には隠れる場所なんてないし・・・なんだか頭が混乱してきたわ・・・やっぱり気のせいだったのかしら・・・。まさか人形がひとりでに動くなんて・・・あるわけないし・・・ねえ、しゃべれるんなら答えて!あなたたちがパンを作ってくれようとしたの?ねえ、そうなの?
ルイーズが後ろを向いている間、ピアは一生懸命うなずいている。
ルイーズ ハア・・・。やっぱり違うわよね・・・
ピア 違わないよ!ルイーズ!!
人形たち ぴ、ピア!!
ルイーズ腰が抜けてしまう
ピア 作り方はね、ティナが知ってたの。前の家では台所に置かれていたからわかるんだって!でも、ちゃんとみんなで作ったのよ。ケティとアーブルなんて喧嘩までしちゃって・・・
ティナ (ピアを止めながら)気にしないでルイーズ!私たち本当は動けないのよ・・・!ほら
ピア どうしたの?まだ三時じゃないよ?!
アーブル、ピアをこづく
ピア やるの?
人形たち 早くやれよぉ
アーブル おれたち全然動けないんだ。パンだってひとりでにできちゃったみたいなんだよな!
エーリック そんなことあるわけないですよ・・・。それに今さら・・・。
みんな気まずくなってやめるがピアだけやっている。
人形たち いつまでやってんだよ!ばか!!
ピア もう、どっちなのよ!!
エーリック それより今はどうするんですか?
ケティ だいぶ粉まきちらしちゃったし・・・
ティナ ルイーズ怒っているんじゃないかしら?!
アーブル じゃ・・・あやまるしかないんじゃないか?
ティナ そうね・・・
ルイーズ あのお・・・みんなやっぱり本当に動けたのね・・・
ピア ルイーズ!私ね、私ね、ルイーズにいっぱい言いたいことあったの・・・・えっと私たちを拾ってくれてどうもありがとう!それからね
ケティ いつも遊んでくれてありがとね!
アーブル これ(服をつまんで)直してくれてありがとな!
ルイーズ どういたしまして!ねえみんな、こっちの部屋にこない?
人形たち うん!(部屋に入る)
ティナ みんなでパンの続きを作りましょう!
ルイーズ 大変だったでしょう・・・粉だらけになって・・・
人形たち 楽しかったよ!平気だったよ(など
エーリック ぼくとアーブルがかきまぜたんですよ!
ケティ 私とティナはこれをねったのよね
ピア 私は両方手伝ったのよ!
エーリック 何個ぐらいできたのでしょうね
ケティ さっき数えたら四十四個あったわ!
エーリック じゃあこれで四十五個。
ケティ 四十六個
ルイーズ 四十七
アーブル よんじゅう・・・
みんな はち!
ティナ 四十九
みんな あれ~?あと一個
エーリック 足りませんね
ピア はい!
みんな ごじゅう!!(拍手)
ルイーズ みんな本当にごくろうさま。ありがとね。あ、座って!
座る
ルイーズ ねえ一か月前に私があなたたちを路地裏で拾ったこと覚えている?
人形たち うん、もちろん!
ルイーズ あの前はみんなどこで暮らしていたの?
ピア 私とケティはね、お金持ちのすっごい大きな家で暮らしていたのよ!
みんな へえ~!
ピア ほかにもたくさんの人形がいて毎日楽しいことばかりだったんだ!
ケティ でもね、そこの家の女の子ったらすんごーっくわがままで、にんじんは嫌い、ピーマンは嫌い、勉強は大っ嫌いって好き嫌いが激しかったのよ!
ピア だからね、ケティがこんな性格になっちゃったの!
ケティ うるさいわねぇ!遊んでくれたのは買ってから五日間だけ!
みんな 五日間だけ?五か月の間違えじゃなくて?!
ケティ 本当よ!そのうち猫のおもちゃになって最後はあの路地裏のゴミ捨て場に捨てられたの
ピア こんあところに穴あいちゃった
ルイーズ いたくないの?
ピア イタイって・・・?
ティナ あ、私たち、いたい、寒い、熱いっていう感覚はないのよ。でも、嬉しいとか楽しいとか感じる心はあるのよ。
エーリック ぼくたちはみんなケティやピアの住んでいたところとはちがってふつうの家に住んでいたんです。心の温かいひとたちばかりでした。でもそのうち戦争がはじまると、人形なんて遊び道具はじゃまになって・・・あのゴミ捨て場に捨てられたんです。
ケティ でも不思議ね。みんなちがうところに住んでたのに、偶然同じ場所に捨てられて、いっしょに拾われたんだもん。
ルイーズ あたしがあなたたちと初めて会ったのはこの隠れ家に移ってきた時だったの。ゴミ捨て場にあなたたちが捨てられているのをみたら「このまま放っておくわけにはいかない」って思ったわ。これからクルト二人っきりだと思ったら急に心細くなったのかもしれないわ・・・。クルトね、お父さんと母さんがドイツ兵に連れていかれるところをずっと見ていて・・・私はサイレンの音を聞くだけですんだけど、クルト・…父さんと母さんは必ず帰ってくるって信じていたいみたい。
ティナ ルイーズ、これからも何か困ったことがあったら私たちにも相談してね!
ピア 私いっぱい考える!!
ルイーズ なんだかあなたたちが人形だなんて信じられないわ。ずーっと前からの友達みたい。
エーリック ぼくたちずーっと前からの友達ですよ!
アーブル たったの一か月だけどな
ティナ そうだ、私たちが動けるってことはクルトにはどうするの?
ピア 私、クルトともしゃべりたい!
人形たち 私も 僕も
ルイーズ クルトには明日話すわ。今日はよく眠っているみたいだし、起こしちゃかわいそうだもの。
ケティ そうか!
エーリック でも、クルトとは明日の夜まで話せないですよ
ピア 楽しみは後の方がもっと楽しいってルイーズがいつも言ってるわよね!
ルイーズ そうよピア!明日の夜なんてすぐよ!!
ピア なんだかすっごく楽しくなってきちゃった!!私たち、もっと前からルイーズと話していたらよかったのにねー!!
ティナ シー!!
ケティ なに?
ティナ 誰か上にいるみたいなの・・・
ピア やだー!!
人の足音。みんな息をひそめる。物音。
ピア やだよー!!(ルイーズ、慌てて電気を消す)
エーリック 行ったようですね
アーブル マーサおばさんだったんじゃないか?
ケティ きっとトイレかなんかでしょう
ピア あー!怖かった!
ティナ でも、マーサおばさんは出かけているはずよ・・・。用事を思い出して戻ってきたのかしら。
ルイーズ ちょっと騒ぎすぎたのかしら・・
ケティ いいじゃない、私たちのはじめてのおしゃべりなんだもの。
エーリック でも、マーサおばさんはルイーズとクルトだけで騒いでいたあと思っているんじゃないですか?
ルイーズ 人形がしゃべるなんて、思いもしないでしょうからね。ねえ、ほかの人形もあなたたちみたいに動いたりしゃべったりできるの?
エーリック ぼくたち人形は、人間が何かをしてくれた時に、恩返しのためだけに動けるんです。いつも、夜中の十二時から三時まで動けて、昼間は心の中でしゃべっているんですよ。
ティナ 私たちの場合はね、ルイーズが拾ってくれたことに対してのお礼にパンを作ったのよ。…ルイーズ、本当にありがとう。
人形たち ありがとう!
アーブル 本当は俺たちが動けるってことは、人間には内緒にしておかないといけないんだけどな。
ケティ アーブルが、ピアをつきとばすからいけないんじゃない!
ルイーズ そんなことないわよ、ケティ。私はアーブルにもピアにも感謝したいわ。だって、そのおかげでこうしてみんなとおしゃべりできるんですもの。
ピア やっぱり、ルイーズ大好き!・・・ねえ、私、別に人間全部に知られちゃってもいいと思うけどなー!!
ティナ でも・・・気持ち悪く思われるんじゃないかしら
ピア なんだあ、つまんないの!
エーリック あ、もうすぐ三時ですよ!
人形たち えー!もう?
ケティ あら、本当。やあね・・・からだがかたくなってきたわ
ピア じゃあね、ルイーズ、ばいばい!
ケティ ・・・もっとたくさんお話したかったのに・・・
エーリック ルイーズ、元気出してくださいね!
アーブル クルトにもちゃんと言っといてくれな!
ティナ じゃあね、ルイーズ、明日の夜に・・・
ルイーズ おやすみみんな。今日は本当にありがとう!
暗転
クルト おはよ・・・
ルイーズ あ、おはよ!・・・パン、全部できたのよ!
クルト すごいねー!
ルイーズ 姉さんはパンを届けてくるから、クルトは朝のご飯の支度をお願いね!
クルト ・・・うん
ルイーズ 今日はクルトにとっておきの話があるのよ!
クルト どんな話?
ルイーズ クルトが元気になってくれるお話!
クルト なあに?
ルイーズ 実はね・・・(耳打ち)
クルト えっえー?!うそじゃないの?すごーい!!・・・なんだか信じられないよ。へえ、このお人形さんたちが動くんだ!
ルイーズ パン作りも人形さんたちが手伝ってくれたのよ!
クルト じゃ、姉さん人形としゃべったの?
ルイーズ そうよ!
クルト ねーおしゃべりしようよ!
ルイーズ でも、夜中の十二時から三時までしか動けないのよ。起きていられる?
クルト うん!ぼく平気だよ。あとでいっぱいお話しようね!ねえ、夜まであとどれくらいかな?
ルイーズ そうね、どれくらいかしら・・・
クルト ルイーズ姉さん・・・ぼく、父さんと母さんがいなくても平気だよ!だって、こんなにおしゃべりする友達ができたんだもん!
サイレンの音。
クルト ・・・ルイーズ姉さん!この音、父さんと母さんが連れていかれたときにもなっていたよね?ねえ!!
ルイーズ 落ち着いて、クルト!・・・ここが見つかったかどうかまだ・・・
サイレンの音、止まる
クルト いやだ!ルイーズ姉さん!!
ルイーズ 昨日の夜、上にいたのはドロボウだったんだわ・・・
足音激しくなる
ルイーズ ・・・みんな・・・私たちはどうなっちゃうの?ユダヤ人はなぜこんな目にあうの?戦争なんてもうたくさんよ!!
どんどん戸を叩く音。暗転。中幕閉じる。
ティナ 泥棒の密告のために隠れ家がみつかってしまったわ・・・マーサおばさんもつかまって・・・
手元にある台本はここまでしかないので・・・。正式に台本に決まったら最後までのを印刷しま
す。大変おまたせしました
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