愛と希望のリーゼレッタ

愛と希望のリーゼレッタ

登場人物(☆は役により兼任可)(♡は他部署の在籍可)

・リーゼレッタ(リーゼ)

・ゲルト

・ジェルベール(ベル)

・イリーナ

・フラウリア(母)

・ランスロット(父)

・カルーネ(伯母)

・青年

・天使

・悪魔

☆シーベ

☆・♡いじめっ子(3人)

☆・♡老婆

☆・♡ジェルベール父(ベル父)

☆・♡側近

☆・♡町人

☆・♡薬屋

青年「アステカ神話に登場する万物の主【オメテオトル】は対立する二つの事柄、例えば、そう、秩序と混沌、光と闇、静と動。それらを兼ね備えた完全なる神。人々は対立する二つの事柄を自らも兼ね備えようとした。しかし、彼らは神ではない、完全には使いこなせないというのに、欲にまみれた者はそれらを欲しがった。」

この間、老婆は青年に物乞い。青年は手で払う。

青年「お話をしましょう。一人の少女のお話。時は十九世紀。舞台はイギリス。」

天使「主人公は愛と希望を持った、貴族の女の子。貴族内の身分は低かったものの、愛と希望があれば、いつか不幸なことが起きても助けてくれる。そう信じていた。」

悪魔「本当にそうだろうか。愛と希望だけで、人は幸せになれるだろうか。いや違う。人は強欲だ。自分勝手だ。愛と希望を平気で裏切る。」

天使「人は美しい。平和を望み、愛と希望を持ち続けている。親切、愛情、夢。そんな言葉を生み出したのは人間。美しい心が無ければそんな言葉は生まれない。そうでしょう?」

青年「今日お読みする本の題名を伝え忘れていました。本の題名は、愛と希望のリーゼレッタ」

伯母「リーゼレッタ!!さっさとお茶会に行きなさい!いつまでぐずぐずしているの!」

リーゼ「カルーネ伯母様。まだ時間が……」

伯母「いい?リーゼレッタ、あなたはこのシルドベ伯爵家のたった一人の跡継ぎ。ロンドンで最下級と言われるこのシルドベ伯爵家が今後地位を高めていくにも今年の社交はかかせないの。ごたくはいいからさっさとお行き!」

リーゼ「せめて馬車は……!」

伯母「あら、偉そうね。そんなにお偉いなら、舞踏会の一つや二つ、ご招待されているはずよね?どうしてお茶会にしか招待されていないのかしら?」

リーゼ「それは……」

伯母「文句を言うなら、上流伯爵家の殿方にでも求婚されてからにしなさい。まあ、無理でしょうけど。」

母「リーゼ、いってらっしゃい。あなたのためにも……」

リーゼ「……行ってきます。」

リーゼはける。

伯爵「それでいいのよ、リーゼレッタ。あー忙しい忙しい!寝込んでばかりの第一夫人の代わりに私が社交にでなければならないのですから!」

母悔しそう。

リーゼお茶会につく。ざわざわしているお茶会が静かになる。

①「やや!シルドベ伯爵のリーゼレッタ嬢じゃないか!歩いてきたんだろう?馬車ではなくて大変だっただろうに!」

②「大丈夫?物は盗られませんでした?あらごめんなさい、盗られる様なものがないわよね。私ったら……」

③「私のお茶会に招待してあげられたらいいのですけど、あいにく家の者が嫌がってしまっていて、ごめんなさいね。」

リーゼ「……いえ、大丈夫です。大変ではありませんし、物は今まで盗られたことはありませんし、お茶会もお誘いしたいと思っていただいているだけで十分でございません。」

①「そうなのかい?それでもやはりねぇ、一応は伯爵家と名乗っているのだし、あまり認めたくはないが、身分的には同じ地位なんだ。伯爵の子として恥ずかしく思うよ。」

②「それに今日の服も……」

イリーナ「おやめになさい!!」

②「イリーナ様……」

イリーナ「人のことを馬鹿にして!馬鹿にされているにもかかわらず、きちんと貴族のふるまいをするリーゼレッタ様を見習っては?とてもあなた方のほうが貴族とは思えませんわ。」

③「失礼いたしました。」

いじめっ子はける。

リーゼ「ありがとうございました。助けていただいて」

イリーナ「いえ、気にしないで。見ていて気が悪かっただけですから。それにしても、あれほどに言われても、怒らないでいられるなんて今までみたことありませんでしたわ。何故ですの?」

リーゼ「いえ、特にはありませんが……。お母様の言葉を信じているだけです。」

イリーナ「その言葉はお聞きしてもよろしくて?」

リーゼ「……お母様はいつも私に、「愛と希望をもって、どんなときにも気高く優しい貴族としていなさい。そうすればどんな絶望に陥っても誰かが助けてくれるわ。」と。」

リーゼ以外ストップモーション。

天使「ほらね、愛があれば、誰かが助けてくれるのよ。愛って素敵ね!」

悪魔「そうかな。そうは思えないけど。助けたのは彼女だけ、あとは観ているだけのただの傍観者じゃないか。」

天使「それはそうだけれど、一人でも助けてくれたことに意味があるわ。リーゼレッタに優しくする心が無ければ、助けてもらえなかったんじゃない?」

悪魔「けれど、見た人からは助けてあげたというようにしか見えなかっただろう。みじめとしか言いようがない。差別もしない心の綺麗な人、本当にありがたいと思ったのかな?妬ましく思わなかったのかな?」

天使「思うわけないじゃない。助けてくれた人にそんな感情抱くなんてありえない。愛と希望をもっていたおかげね!愛と希望があれば何でもできるの!」

悪魔「本当はそう思いたいだけだろう……?」(つぶやく)

リーゼ、お茶会の帰り道。

リーゼ「…はあ、家帰りたくないなぁ。伯母様にまた何か言われるし。あー、ダメダメ!こんなこと言ってたら!愛と希望よ、リーゼレッタ!しっかりしなさい!!」

ゲルト「そこのお嬢様、どうかしたのかい?ご乱心だけど」

リーゼ「……(周りを見渡す)」

ゲルト「あー、ここ、ここ!」

堀から降りてくる。9個の箱を使う。堀は冬公のベンチの組み立て方。

ゲルト「こんにちは、僕はゲルト。」

リーゼ「えっと、私はシルドベ・リーゼレッタでございます。」

ゲルト「うん、知っているよ!僕の友達やら知り合いやらが、首(口?)をそろえて「リーゼレッタ様は俺らにまで気にかけてくれる、優しいお方なんだ!」って言っているからね」

リーゼ「そうなんですか……。よかった」

ゲルト「そんな貴族っぽい話し方じゃなくていいのに。僕、町民だしね」

リーゼ「でも…」

ゲルト「そう?僕はさっきの素のリーゼレッタのほうが好きだけどね」

リーゼ「…」

ゲルト「あ、ごめん。あの、えっと、ああ、そこの靴屋の見習いなんだ!ほら、接客するとき、「お似合いですよ!」とかいうだろ?だからそれでね!」

リーゼ「ふふ、必死じゃない。」

ゲルト「必至だよ。そりゃあお貴族様に興味本位で話しかけたはいいものの、ついうっかり口説き文句みたいなことを言っちゃったから。」

リーゼ「…」

ゲルト「もしかして、お貴族扱いされるの嫌なの?」

リーゼ「…そういうんじゃなくて。いろいろな貴族がいるのに、同じ貴族としてひとくくりにされるのが嫌なだけ。ほとんどの人が町民や下級貴族を馬鹿にして、そんな人たちと同じに思われるのがいやなの。」

ゲルト「それは申し訳ないね…。じゃ、じゃあさ、話聞くよ。リーゼレッタ、さっきご乱心だったろう?その話!ついでに僕の愚痴も聞いてくれる?」

リーゼ「…ずいぶんちゃっかりしているのね。」

ゲルト「まあ、接客業しているので?」

リーゼ「わかった。話聞いてくれる?」

ゲルト「も、もちろん!」

リーゼ「長くても?」

ゲルト「うん!あと僕の話も……」

リーゼ「聞くわ、ゲルト。」

TOP。堀とは反対に。この間にリーゼ・ゲルトはける。

青年「リーゼレッタは靴屋見習の少年、ゲルトに出会います。ゲルトと話していくうちに彼らは意気投合。毎日のように会うようになりました。」

天使「私は幸せ!貴族の方に助けれれて、ゲルトに出会うことができた。これは全部愛と希望を持っていたから!素晴らしいわ!もうどんなに嫌なことを言われても平気!だってゲルトがいるんですもの!」

悪魔「運がいいだけだ。ずっと前から愛と希望をもっていたというのに、今まで助けられていなかったのはなぜだ。それは全ての人が助けてくれるとは限らないからだ。」

天使(青年?)「…。そんな幸せなリーゼレッタの元に一通の招待状が届きます。

リーゼの家。

伯母「リーゼレッタ!!舞踏会の招待状が届いたわ!主催者は……まあ!ガレイド侯爵家?!さあこうしちゃいられないわ!街に出て服を注文しないと……!!」

リーゼ「私はお母様と……」

伯母「あら?自分だと思ったの!私のよ!あなたはその服でいいでしょう?」

母「リーゼ、私の服をあげるわ。もう着れないものがあるの。リーゼにきっと似合うわ」

伯母「よかったわね、リーゼレッタ。では、さようなら」

伯母はける。入れ替わりに父登場。

父「リーゼ、すまないが薬屋にフラウリアの薬を取りにいってくれないか?」

リーゼ、「はい。お父様、行ってきます」

街。

薬屋「はい、薬だよ。」

リーゼ「ありがとう。これだけ…かしら。」

薬屋「ああ、金を渡された分だけだよ。フラウリア様の病気はよくならないなぁ。いろいろと頼みたいことがあるのに。」

リーゼ「そうですか。ありがとうございます。」

反対側からジェルベールが歩いてくる。

町民1「見ろよ。ガレイド侯爵家の方だ。あいつら俺たち町民のことを何も思ってねえしよ。しかも侯爵様は横暴で、気に食わねえことあるとなんでも物を投げるらしいぜ。」

町民2「ああ、それ俺も知っている。この前召使に花瓶投げて、召使い今危篤状態なんだろう?」

ジェルベール町民をにらむ。ちょうど薬屋を出てきたリーゼとぶつかる。

ベル「なんだ、俺にぶつかるとはいい度胸をしているな、薄汚い小娘。慰謝料の一つでも払えと言いたいところだが、私は父と違ってそこまで横暴じゃない。今回は許してやる。」

リーゼ「はい…。」

ジェルベール去る。はける手前でこの後の町民の話を聞く。

町民1「リーゼレッタ嬢大丈夫かい?何なんだ、ガレイド家の人間は!」

町民2「けがはない?」

リーゼ「ええ、ありがとう。」

町民1「リーゼレッタ嬢を見習ってほしいよ」

町民2「俺たちのことを考えてくれていて、街をきれいにするよう呼び掛けてくれたり、家の修繕なんかも手伝ってくれるしよ。ほんとうにありがとな」

リーゼ「ありがとう。お役に立てたならそれでいいのよ。」

二人「リーゼレッタ嬢~!!」

悪魔「人は自分勝手だ。どうせ自分たちよりは金があるから利用しているだけだろう。全く、人というものは信じられない。」

天使「いいえ、人とは美しいわ。そうじゃなきゃ、お礼なんて言えないわ。」

悪魔「信じて何になる。お前が不幸になったら必ず助けてくれる確証はあるのか?」

天使「人を疑うことは一番不幸になるわ。どんな人物かなんて話していたらわかるじゃない。皆いい人でしょう?」

悪魔「だからと言って信じて何になるんだ。彼らは何も持っていない。」

天使「いいえ、待っているわ。優しさよ。誰もが労わってくれて素晴らしいじゃない」

悪魔「人は流されやすい。すぐに変わるさ」

天使「根底にある愛は変わらないものよ。」

ゲルト「…。それで、舞踏会のドレスは何色なんだい?」

リーゼ「えっと…〇〇色よ。それで○○なデザインなの」

ゲルト「あー、君にピッタリの色だね。だとしたら…」

リーゼ「ゲルト?」

ゲルト「よかったら、僕から君に靴を贈ってもいい?」

リーゼ「ええ!もちろん!ゲルトが作るなら、私今日買った靴よりそっちにするわね。ゲルトが一緒にいてくれるんだって思えそう。」

ゲルト「よかった!…と、もう行かなくちゃ」

リーゼ「最近忙しいの?」

ゲルト「まあね。」

リーゼ「そう…」

ゲルト「舞踏会の前日、ここで待っていてくれ!絶対にリーゼレッタに似合う靴を作ってくるから!」

リーゼ「楽しみに待っているわね!」

イリーナの家。バルコニー(上手)。下手にゲルトとリーゼ。

ベル「イリーナ、何を見ているんだい?」

イリーナ「ジェルベール様!…街を見ていたのです。…あの女性!リーゼかしら?町人と仲がいいとか言っていたわね。…貴族と街の人々が仲良さそうに話しているだなんて夢みたい。…そんな世界になってほしいわ。」

ベル「…」

イリーナ「ジェルベール様?」

ベル「いや何でもないんだ。そんな世界になるといいね。」

イリーナ「ええ!そんな世界をジェルベール様を見たいです!」

ベル「…そうだな。」

ゲルト「リーゼレッタ、これ」

リーゼ「すごい…!ゲルトこんな靴を作っていたのね!」

ゲルト「うん…まあね…。リーゼレッタ一回履いてくれる?サイズとか確認したいし。」

リーゼ「あ、うん」

靴を履く。

ゲルト「うん、ぴったりだ。どんな宝石を身に着けた貴族より、リーゼレッタが一番きれいだよ。」

リーゼ「またそんなこと言って…。お世辞はいいのよ?」

ゲルト「お世辞じゃないよ。本心さ」

リーゼ「…。」

ゲルト「舞踏会楽しんでね」

リーゼ「うん、も、もちろん。あ、私舞踏会の用意あるから帰るわね!」

ゲルト「あ、うん!感想待ってるね!!」

リーゼレッタ靴を履き替えて走り去る。

シーベ「兄貴いいいいいい!!」

ゲルト「シーベ!見てたのか?」

シーベ「はいばっちりっす!ラブラブすね!兄貴!」

ゲルト「からかうなよ、シーベ!」

シーベ「『リーゼレッタのためだ。最高の靴を作りたい。』って。俺も夜な夜な手伝った甲斐がありますよー!」

ゲルト「本当にありがとうな、いつも。ほら帰るぞ。」

シーベ「…兄貴、リーゼレッタ嬢はさ、他の貴族みたいにさ、なっちゃわないよな。」

ゲルト「…シーベ?」

シーベ「俺の親父、貴族にぶたれてさ、耳が片っぽ聞こえなくなっちゃったんだ。その貴族は最初は優しかったんだけど、変わっちゃったんだ。お金がないからって。リーゼレッタ嬢は変わんないよな?怖いんだ、また俺の周りの人が傷つくのが…」

ゲルト「シーベ…。リーゼレッタに限ってそんなことはないだろう?だってリーゼレッタには愛と希望がある。お前もわかっているだろう?それにお前の大切な人は俺が絶対に傷つかせない。俺がお前自身も守ってやるから。だから…安心しろ!」

シーベ「兄貴…」

ゲルト「手伝ってもらっちゃったしな…。なんか食べに行くか!俺のおごりで」

シーベ「…はい!!」

上下どちらかTOP。

ベル父「いいか。ジェルベール。お前もそろそろ結婚相手をみつけろ。このガレイド家がさらに地位を上げていけるような相手を探せ。」

ベル「もちろんです、父上」

ベル父「心当たりがあるのか?」

ベル「ええ、確実に結婚できるうえに、ガレイド家が民からも慕われるようになるでしょう。」

ベル父「ほう。その相手とは?」

ベル「シルベド伯爵家のリーゼレッタです。」

側近2資料を渡す。

ベル父「何?1そんな下級伯爵の者とだと?!」

ベル「はい。シルドベ伯爵は富がないため馬車はあまり使わず、街の者とも交流が多いそうです。つまり、シルドベ伯爵家の娘であるリーゼレッタと結婚すれば、町民にとって自分たちに一番近い存在が侯爵家に嫁ぐことになります。権力のある侯爵家を通して街をよくするように意見を言える。その要望を叶え続ければ、ガレイド家は民から慕われ、人気は高まり、地位が上がっていくでしょう。嫁に迎えるだけ迎えて、あとはこき使えばいい。働き手は増えて損はありません。」

ベル父「…ふむ。わかった。認めよう。明日の我が家主催の舞踏会でいいんじゃないか?」

ベル「ええ、早いうちに、そこで申し込みます。」

舞踏会。

イリーナ「ごきげんよう。リーゼ」

リーゼ「ごきげんよう、イリーナ様。そのドレスとてもきれいですね」

イリーナ「ふふ、ありがとう。リーゼもよく似合っています。」

リーゼ「ありがとうございます。」

イリーナ「あら、その靴すごき綺麗…」

リーゼ「知り合いの靴屋の見習いが作ってくれたんです。」

イリーナ「すごく腕がいいのね。見習いなの?」

リーゼ「はい。優しくて腕のいい気が合う友人です。」

イリーナ「そう、その方はリーゼに特別な方なのね。」

リーゼ「そういうのではないのですが!イリーナ様にはいらっしゃるのですか?」

イリーナ「ええ、この舞踏会の主催者ガレイド侯爵家のジェルベール様なの。小さいころから家同士の仲が良くて、たまにお会いになるのですけど。どの方にも凛としていて優しくて…。剣術もロンドンで五本の指に入るの!あの方と結婚することが私の夢。」

リーゼ「…!…そうですね。」

イリーナ「あら!ちょうど来たわ!こっちに来るのかしら!」

それを遮るように。

ベル「少しいいかな?」

イリーナ「ジェルベール様!!」

イリーナ自分と思い手を差し出す。

ベル「リーゼレッタ、僕と踊ってくれないか?」

リーゼ「…え?」

イリーナ「私ではなくて…リーゼ…ですの?」

ベル「ああ」

イリーナ「…本当にそれでいいのですね?」

ベル「何か悪いのかい?」

イリーナ「いえ、ジェルベール様がいいのならそれでいいのです。では、お邪魔でしょうし、私はお暇しますね。リーゼ、楽しんでね。」

イリーナ去りかける。

ベル「リーゼレッタ嬢。僕と結婚してくれないか。君の町民を思いやる気持ちは美しい、僕はそんな君にひかれた」

イリーナ、振り返る泣きそう。耐えられずリーゼ走り去る。

舞踏会会場を出たところ。

リーゼレッタ走って出てくる。側近1・2話している。

側近1「いやはや、ジェルベールさまが結婚とは…。しかも最下級の伯爵家の者とは…」

側近2「ジェルベール様はお心が広いのだ。主もよく知っておるだろう」

側近1「それでも納得できんのだ。侯爵家ともあらば他にふさわしい者だっていたろうに」

側近2「…主、ジェルベール様がなぜその伯爵家の娘を結婚相手としたか知らないのか?」

側近1「…ええ」

側近2「その伯爵家は町人との交流が多くてな。もし結婚すれば、町人の意見が入ってくる。それを少しずつ聞いていけば、町人たちは数ある侯爵家の中でこのガレイド家を支持するようになる。王家がその話を聞けば、自動的に良い印象がつく。言わずもがな、ガレイド家の地位は上がっていくというものよ。」

リーゼ側近1・2の前を走り去る。

側近1「あの者に聞かれただろうか。」

側近2「ああたぶんな…まあ気にせんでいい。無駄口をたたかずに警備にあたろう」

10

リーゼの家に戻ってきている。

父「…リーゼ?今日は舞踏会だったろう?どうしたんだ?」

リーゼ「…」

父「まあ、聞かないでおくよ。お帰り、リーゼ。…そうだ、カルーネ姉さまは言い方はきついかもしれないが、お前のことを想って言っているからな。」

リーゼ「…カルーネ伯母様が何か言っていたのですか?」

父「いや、最近リーゼが苦しそうな顔が多いと思ってな。」

何かが倒れる音。ベッドの上で苦しそうな母。

父「フラウリア!!リーゼ、医者を呼んでくれ!!」

リーゼ「はい、お父様!!」

3秒暗転。リーゼ、母の部屋の外にいる。父扉を開ける。

リーゼ「お父様!!お母様は?!!」

父「お医者様はなぜ今までいきていられたのかと思うほどだと言われた。薬はもはや手遅れらしい。もって二日だと…」

リーゼ「そんな…」

母「リーゼ?」

リーゼ「お…母様」

父「フラウリア!!」

母「私は…もう死ぬのね」

父「それは違う!きっと生きる!約束しただろう?また春にはお前の好きな花が咲く。また見に行くんだろう?」

母「ランスロット…。私が一番わかっているわ、自分の命くらい。今までありがとう。私の生きる理由だったわ。そして…リーゼ、どんなに辛くても愛と希望を忘れないで。」

父「ごめんな。薬を買ってあげる金がなくて…!助けてやれなくて!!」

母「いいのよ。三人ですごした日々は幸せだった。生きて出会って、生まれてくれて、ありがとう。さようなら」

11

リーゼ「明け方、お母様は息を引き取った。ねえ、お母様…愛と希望は本当に必要だったかしら。もし必要だったなら、どうして誰も助けてくれなかったの…?薬屋のおじさん、なぜ薬をもっとくれなかったの?お母様は慕っていたし、改築も手伝った、いつか恩は返すよって言ったわよね。なぜ私たちが助けてほしいときに助けてくれないの?お父様はなぜ私に薬のことを相談してくれなかったの?なぜ私だけ知らなかったの?お母様のお葬式。親戚の人たちに言われたの。結局買えなかったのねって。私だけカヤの外。親戚の人たちはなぜ、愛と希望をもった母を助けなかったの…?」

悪魔「それは簡単だ。どんなに優しくしたって、人は助けてくれないからだ。自分勝手な人間は自分に利益がないなら、関わらないし、切り捨てる。人間とはそういう生き物なんだ。」

天使「それは間違い。実際あなたはお母様の言葉を信じて何度も助けてもらった」

悪魔「それでも世界は変わらない。身分差別の中では意味がない」

天使「その中でどう生きていくかよ」

悪魔「愛?希望?くだらない。信じた母親は死んだんだ。愛や希望だけじゃ生きていけない。身に染みてわかっただろう。どんなに愛や希望があったって、だーれも助けてくれやしない!どんなに守りたい人がいても、金がないと助けてやれないんだ!!愛と希望だけじゃ人の命は助けられない!地位より大切なものはないんだよ!俺は何度も言った、信じて何になるのと!信じ続けたからこうなったんだろう?!」

天使「それでも幸せなことだってあったじゃない!お金がなくても幸せだった!苦しい生活でも楽しいことがあった!その記憶も否定するの?!」

悪魔「それは過程の話だ!結論はどうだ!愛と希望だけを信じた母親は死にあらがうことなく死んだだろう。愛なんて希望なんて必要ないんだよ!」

天使「愛が必要ない?愛は誰かが誰かを大切にしなきゃ生まれない!人と人とのつながりの中で生まれるの!人は一人では生きていけない!誰かに大切にされて初めてその存在は尊いものだとわかるの!」

悪魔「じゃあ、なんで人は捨てられるんだ!虎児という言葉が生まれる?!愛だけじゃ生きていけないんだよ!」

リーゼ「もういいわ!!!」

天使「リーゼレッタ?」

リーゼ「人は自分勝手よ。誰かが自分を押し殺していきていくなんて辛いわ。みーんな自分勝手なんですもの。私だって好き勝手にいきていいわよね。努力しても救われない、信じても救われない。そんな世の中なんですもの!」

天使「リーゼレッタ目を覚まして!!」

リーゼ「あなたはもういいわ。さようなら」

一瞬の暗転。天使消える。

悪魔「そうだ、リーゼレッタ。人は自分勝手だ。自分の人生なのに、どうして我慢するんだ?なぜ好き勝手生きちゃいけないんだ?おかしいだろう?もうこれからは自分のために生きていいんだ。」

リーゼ「ええ、自分のためだけね…。なんて…」

リーゼ「幸せなことなんでしょう。」

12

街。ゲルト持っている。リーゼ登場。

ゲルト「リーゼレッタ!!久しぶり!元気だったか?」

町民1「おう、リーゼレッタ嬢じゃねえか。ずいぶんキラキラな服着て一体どうしたんだよお」

町民2「そうだ、リーゼレッタ嬢。ゲルトったらよう、リーゼレッタは元気かな?とか、リーゼレッタは大丈夫かな?とかいちいちうるさくてよ。のろけ話も聞かされたんだぜ?」

ゲルト「ちょ、ちょっと!」

町民3「リーゼレッタ!この装飾綺麗ね!少し触ってもいい?」

リーゼ「気安く触らないでくれる?私は侯爵夫人よ。なれなれしく呼ばないで。」

ゲルト「リーゼレッタ…?」

リーゼ「私、ガレイド侯爵家の方と結婚したの」

町民1「ガレイド侯爵ってあのジェルベール様か!なんであんな奴と!」

リーゼ「ジェルベールを馬鹿にしないでくれる?町民風情が。」

ゲルト「リーゼレッタ!目を覚ませよ!冷静になれ!愛と希望はどうしたんだよ!」

リーゼ「私はいつでも冷静よ。愛?希望?そんなの捨てたわ。持っていたって幸せになれないもの。いい?幸せはつかみにいかなきゃいけないの。愛だけじゃ、大切な人は守れない。これは私の人生、私だけの物語よ。好き勝手に生きて何が悪い?もういいかしら?行きましょう。」

大量の箱を抱えた従者が出てくる。暗転。

13

青年「こうしてリーゼレッタはジェルベールと結婚しましたが、金の妄執に取りつかれてしまいました。そんな彼女が人々から慕われるわけがありません。自分勝手にふるまうリーゼレッタを愛すものはもういなくなってしまいました。町人たちとジェルベールの関係はリーゼレッタと結婚する前とさほど変わりはせず、最終的にリーゼレッタはガレイド家と縁を切られるのでした。実家に帰ろうとするものの、父ランスロットは馬車にひかれ、すでに亡くなっていました。伯母カルーネが彼女を家に戻すわけありません。自力で生活することになりましたが、金銭感覚が狂っていたため、生活は苦しいものでした。ストレスにより、若々しさと美しさを失い、老婆のような風貌になり果てました。」

青年が話している時、後ろで劇。老婆が出てくる。

青年「彼女は今、物乞いをしている。いつか一人で寂しく死ぬ日まで。…おしまい。」

青年老婆に近づく。

青年「あなたの物語、大変面白かったです。せめてのお礼をしなくては。(ほんの少しのお金を渡す)…これくらいで十分でしょう。あなた…リーゼレッタには」

老婆大喜び。

青年「人とは面白い。二面性を持っているのを隠して生活している。隠し通せるわけないのに。さて次はどんな話を読みましょうか。過去の作品だと…傲慢なジェルベール?誠実なゲルトなんかも面白い。新しく作るのもいいですね。ああ、あなたのお話なんて面白そう。人の過去、人生を本とする。未来は決して書きません。私パストライター。過去の小説家が誠心誠意書き、読ませていただきます。さあ、オーダーを。」

【終】

宮中演劇部

台本置き場です。